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「米国のいない世界」に放り出された日本

日本は「親欧・脱米」を国家戦略の原則に

[2026.1.1]



世界秩序を「法の支配」から「力の支配」へと変更し、世界3分割を推進する米トランプ大統領
PHOTO(C)LEUTERS


「力の支配」と「世界分割」を宣言した米国の「国家安全保障戦略」



 2026年を迎えるにあたり、私達日本人は、これまでの価値観や既成概念を根本から変えてゆく必要がある。

 過去80年以上もの間、当たり前のように思われてきた「米国のいる世界」は終わった。

 これからの世界は、「米国のいない世界」を前提にしなければならないのである。

 2025年12月4日、第2次トランプ政権の米国政府は「国家安全保障戦略(NSS)」を公表した。

「国家安全保障戦略」は、新たな大統領が就任してから150日以内に連邦議会に提出する義務があるとされているが、今回は300日以上もかかった。

 それは、これまでの米国歴代政権の理念とは全く異なった内容になっている為である。

 因みに、米国の歴代政権の「国家安全保障戦略」においては、中国やロシアとの「大国間競争」や「戦略的競争」について大部分が記述され、その後に「ならず者国家」としてのイランや北朝鮮への対応について述べられるのが通例であった。

 しかしながら、第2次トランプ政権が今回新たに打ち出した「国家安全保障戦略」では、まず冒頭部分で「米国が世界秩序を支えてきた時代は終わった」と明記されている。

 そして同文書では、米国の歴代政権がこれまでに行ってきた他国への介入を批判し、そうした姿勢と決別する意志を強調している。

 その上で地域別の戦略として、南北アメリカ大陸を含む「西半球」を米国の勢力下に置く方針を示している。

 さらにこの方針を「モンロー主義」に重ね、西半球において外国の干渉を容認しないとした。

 モンロー主義とは、1823年に第5代米国大統領ジェームズ・モンローが唱えた南北アメリカ大陸と欧州との間の「相互不干渉の原則」である。

 トランプ大統領はこの原則に回帰し、南北アメリカ大陸における米国の優位を確立して、大規模な移民の阻止、麻薬密輸などの国際犯罪防止を徹底するとしている。

 また同文書では、米国政府による「アメリカ・ファースト」政策と同様に、中国やロシアなど他の国々もまた「自国ファースト」政策で運営されるべきである事を宣言している。

 さらに、歴代政権では「差し迫った脅威」と位置付けていたロシアや、「唯一の競争相手」としていた中国に対しては、直接的な批判表現を避けている。

 こうした点が、従来の「国家安全保障戦略」との大きな違いである。

 トランプ大統領は、33ページにわたるこの文書を、米国が「人類史上最も偉大で最も成功した国家」であり続けるための「ロードマップ」であると豪語した。

 第2次トランプ政権が打ち出した新たな「国家安全保障戦略」は先ず、西半球における米国の優位性を重視し、「西半球さえ安全であれば、米国はその他の地域の事は気にしない」という大方針を明確にした。

 そしてこれからは、「各国が自らの勢力圏における権利や特権を再主張するべきである」という考えを示したのである。

 このように同文書は、中国やロシアなども、それぞれ大国としての利益を追求する権利があるとしている。

 これは、米中露の3大国で世界を再分割する事を意味する。

 そしてこの事は、「自国第一主義」の世界観の論理的帰結でもあった。

 米国が「アメリカ・ファースト」を主張するならば、ロシアによる「ロシア・ファースト」も、中国による「チャイナ・ファースト」も、同様に尊重されることになる。

 そして現在、トランプ政権は「モンロー主義」を振りかざして、中南米のベネズエラに対し、石油獲得を目的に軍事行動を起こそうとしている。

 このようにトランプ政権が、米国の「勢力圏」である中南米周辺で力を誇示している事自体が、ロシアや中国に対しても「同様の行為を容認する」という明確なメッセージになっているのである。

 ロシアは、かつてソ連の「勢力圏」であったウクライナや東欧の旧共産圏において保有していた権利を再主張しても構わないと受け取るであろう。

 また中国は、中国の「勢力圏」である台湾を武力制圧しても問題はない、と解釈することになる。

 米国がカリブ海でやっているのと同じ事を、中国が東シナ海でやって何が悪い、という事である。

 12月17日、トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し、「ベネズエラは、米国の石油の権利を奪った。我々はベネズエラに多くの石油を持っていたが、知っての通り、彼等は我々の企業を追い出してしまった。我々はそれを取り戻したいのだ」と強調した。

 因みに、米国企業が中南米のベネズエラで油田を保有していたのは半世紀以上も昔の事であり、ベネズエラは1970年代に石油部門を国営化した。

 たとえ小国といえども、ベネズエラは国際法上、明確に独立した主権国家である。

 半世紀以上も前にベネズエラが「国有化」した油田を、今さら米国が「取り戻したい」と言っても、国際法上、認められるものではない。

 しかしながら「モンロー主義」の論理では、南北アメリカ大陸は「米国の勢力圏」であり、中南米のベネズエラはそこに含まれるから、米国の言い分は当然の権利ということになる。

 そして現在、トランプ政権は、ベネズエラに対する軍事侵攻を準備しているのである。

 従って今後、たとえ中国が台湾に武力侵攻をしたとしても、米国がそれに対して文句を言える立場には無いし、米国自身も文句を言うつもりなど無いであろう。

 今日の米国が正義とする基本理念は「自国第一主義」なのであるから、米国がベネズエラに軍事侵攻する事が正当であるのと同様、中国が台湾に軍事侵攻する事も正当であることになる。

「台湾有事の際に、米軍が台湾に派遣される」というシナリオは、もはや存在しない。

 今や米国は、経済的利益さえ確保することが出来れば、中国やロシアと勢力圏を分割しても構わないという政策へと完全に転換した。

 事実、トランプ政権による台湾に関する態度には大きな変化が生じている。

 バイデン政権時代の「国家安全保障戦略」では、「台湾海峡での一方的な現状変更に反対する」と明記されていたのに対して、第2次トランプ政権による今回の文書では、「台湾海峡での一方的な現状変更を支持しない」と表現が大きく後退した。

 今回の文書で「台湾海峡での一方的な現状変更を支持しない」と表現された事に安堵している日本国内のニセ評論家は多いが、この場合は、バイデン政権時の「現状変更に反対する」という表現が破棄された事実を重視するべきなのである。

 以前の「反対する」との表現を撤回した上で、「支持しない」に変更したという事は、「支持はしないが、反対もしない」事を意味している。

 即ち、第2次トランプ政権の「国家安全保障戦略」は、「台湾海峡での一方的な現状変更を支持はしないが、反対もしない」と理解するのが正しい解釈なのである。

 また今回の「国家安全保障戦略」では、アジア地域において米国が関与するのは、あくまで「経済」のみである事を明確に宣言している。

 この事は、トランプ政権が「アジア地域において米国は軍事面で関与しない」事を宣言したものと理解しなければならない。

 これら2つの表現から、「米国は台湾有事に介入しない」という方針が明らかになった。

 このように今回の「国家安全保障戦略」は、中国によるアジア太平洋地域の支配を、米国が容認したという意味でも画期的な文書なのである。

 従って我が国は今後、「米国のいない世界」を前提に、超大国の中国に対峙してゆかなければならない。

 米国は最早、以前の米国ではないのである。



「欧州との決別」を宣言した米国



 次に、今回の「国家安全保障戦略」の大きな特徴としては、欧州の同盟国を厳しく批判している事が挙げられる。

 米国が公式の文書において、欧州の同盟国に対してこれほどの非難をした事は、過去に前例が無い。

 今回の「国家安全保障戦略」は、欧州が抱えている深刻な問題として、
「政治的自由と主権を損なう超国家機関の活動」
「欧州大陸の性格を変容させ社会的摩擦を生む移民政策」
「言論の検閲と政治的反対派の抑圧」
を挙げている。

 第1の「政治的自由と主権を損なう超国家機関の活動」とは、「影の世界政府」や「ディープ・ステイト(DS)」と呼ばれる存在をいう。

 従来は陰謀論として扱われる事が多かった「超国家機関」の存在を取り上げ、欧州社会の価値観や欧州各国政府が「超国家機関」によって支配されている事を問題視している。

 また第2の「欧州大陸の性格を変容させ社会的摩擦を生む移民政策」については、欧州各国政府が推進する大量移民による「人種入替え」が、欧州の「文明の消滅」をもたらす根本要因であるとし、大量移民の阻止を優先課題として指摘する。

 さらに第3の「言論の検閲と政治的反対派の抑圧」との指摘は、ドイツのAfDなどの「移民に反対する愛国的政党」に対する当局による検閲や抑圧などの事態を問題視している。

「国家安全保障戦略」は、「こうした状況が続けば、欧州は20年以内に欧州人の国なのかどうか見分けがつかなくなり、欧州諸国が信頼できる同盟国であり続けるだけの経済力や軍事力を維持できるか疑わしい」とし、欧州は「文明の消滅」の危機にあると断じている。

 そして米国は、「文明の消滅」に直面している欧州とは距離をおく事によって、南北アメリカ大陸の安全を確保しようとしているのである。

 その上で「国家安全保障戦略」は、「欧州が自立し、如何なる敵対勢力にも支配されることなく、自らの防衛に主権的責任を負うことを含め、連携する主権国家のグループとして活動することを優先すべき」とした。

 この事は、米国によるNATO離脱を含む「欧州離れ」を示唆している。

 同時に米国は、欧州に対して「自己防衛の主要責任」を求め、対GDP比5%の防衛費を要求している。

 要するに「欧州は欧州自身で守れ」という事である。

 また米国は、日本に対しても欧州と同様に対GDP比5%の防衛力増強を求めている。

 米国が事実上、NATOから離脱するように、日米安保条約も今後、空文化される事は間違いないようである。

 バイデン政権時代の「国家安全保障戦略」では、ロシアを「国際システムへの差し迫った脅威」としていたのに対して、トランプ政権の今回の文書では、ロシアに対する批判は皆無である。

 その代わりに、欧州の同盟国を激しく批判し、欧州は「文明の消滅」に直面しており、「信頼出来る同盟国であり続けるか全く明らかでない」と断じている。

 かくして米国による「欧州との決別」の意思が明確にされた。

 このように、今回の米国政府による「国家安全保障戦略」は、同盟国を切り捨て、中国やロシアを利する内容となっている。

 当然の事として、西側諸国からは数多くの反論や懸念が示された。

 米国の新戦略に対し、ドイツのメルツ首相は、「欧州の観点から見て受け入れ難い」と述べている。

 またEUの元高官は、同文書の内容について、「同盟国に対する敵対的な姿勢の中でも際立っていて衝撃的だ」と指摘した。

 一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は、今回の「国家安全保障戦略」について歓迎の姿勢を示し、「我々の見方とほぼ一致している」と述べた。

 米国政府が発表した「国家安全保障戦略」が、ロシア当局から絶賛された事は、おそらく今回が初めてであろう。

 今日の米国は、むしろロシアや中国のような権威主義的国家に変わったと見るべきである。



「ネオ・ヤルタ体制」による世界3分割



 これまでの世界秩序は「国際協調主義」によって支えられてきた。

 その「国際協調主義」を根底で支えてきたのは「法の支配」という価値基準であった。

 だが米国は、これまで国際社会を支えてきた「国際協調主義」に取って代わる概念として、「自国第一主義」を国際社会の共通価値基準にしようとしている。

「自国第一主義」とは、言い換えれば「自国中心主義」であり、その根底にある思想は「力の支配」である。

 トランプの目指す世界は、米中露の3大国それぞれの「自国第一主義」によって支配される新世界秩序である。

 ウクライナへの侵略を続けるロシア、台湾への武力侵攻を公言する中国、南北アメリカ大陸を我が物とする米国など、超大国による自国中心の政治姿勢は、世界的規模で「法の支配」という価値基準を破壊してきた。

 今や国際社会は、「法の支配」から「力の支配」へと転換しつつある。

 今後の世界は、米国と中国とロシアの3大国によって分割支配される「ネオ・ヤルタ体制」という新世界秩序へと移行するだろう。

 これは米国にとっては、冷戦終結以降、強大な経済力と軍事力を背景に実現してきた「パックス・アメリカーナ」(アメリカによる世界平和)の完全放棄を意味する。

 2013年にオバマ政権が「米国は最早世界の警察官ではない」と宣言していたが、2025年には、トランプ政権が様々な国際慣習を強引に変更し始めた。

 米国は、「世界の警察官」としての役割を放棄しただけではなく、中露と同様の「世界のならず者」として、傍若無人に振舞う自己中心の国家へと変貌を遂げた。

 旧ヤルタ体制では、米ソの2大国で世界を分割したが、「ネオ・ヤルタ体制」では、米中露の3大国で世界を分割支配することになる。

 具体的には、米国が「南北アメリカ大陸」を、中国が「アジア太平洋」を、ロシアが「欧州大陸」を、それぞれ勢力下に置くという「世界3分割体制」である。

 そしてこの世界3分割体制は、モンロー主義への回帰を目指すトランプ大統領の目標にも合致している。

 もともと米国のモンロー主義とは、米国単体ではなく、「南北アメリカ大陸全体の自給自足主義」を意味する概念であった。

 言い換えればモンロー主義は、「米国は欧州大陸とは一切関わらず、南北アメリカ大陸だけでやっていく」という事である。

 そうした観点から見れば、これまでトランプ大統領が唱えてきた
「メキシコ湾をアメリカ湾に名称変更する」
「カナダを51番目の州にする」
「パナマ運河を取り戻す」
「(北米大陸と隣接する)グリーンランドを購入する」
等々の発言は、いずれも南北アメリカ大陸の問題であり、モンロー主義に基づいた主張であった事が分かる。

 米国が「自国第一主義」政策を推進し、世界秩序が「ネオ・ヤルタ体制」へと移行する事に伴って、「自由世界の為に戦う米国」という従来の神話は完全に崩れ去った。

 米国は南北アメリカ大陸の支配のみに専念し、アジア太平洋の支配は中国に、欧州大陸の支配はロシアの手に委ねられる事になった。

 台湾有事の際に、米軍が台湾に派遣される事が無いのと同様に、今後ロシアが欧州に侵攻しても、米国が介入する事は無い。

 では一体何故、米中露の3大国が仲良く世界分割をする事になったのか、多くの人は不思議に思うであろう。

 実は米中露の3大国は、「反グローバリズム」や「反移民」、「反ディープ・ステイト(DS)」といった共通の価値観で結ばれている。

 現在の世界が「影の世界政府」と呼ばれる超国家機関によって支配され、LGBTQやジェンダーや移民推進といった価値観に世界が汚染されている事に、米中露の当局は強い危機感を抱いている。

 とりわけ欧州は、「影の世界政府」によって推進されてきた移民の大量流入によって、「文明の消滅」の危機に直面している。

 そうした中、米中露の首脳はいずれも、「自分の国だけは文明の消滅から守らなければならない」という強い危機感を抱いている。

 そしてそのためには、「反グローバリズム」という共通の価値観を持った国々で世界を分割統治し、国際機関やグローバリズムが支配する世界を終わらせるべきだ、ということになる。

 トランプ大統領が、欧州の文明を消滅から救う為には、「欧州はロシアに支配された方が良い」と判断したとしても不思議ではない。



5年以内にロシアが欧州に侵攻する



 多くの日本人が「間もなく中国が台湾に軍事侵攻する」と考えているように、多くのヨーロッパ人は「間もなくロシアが欧州諸国に軍事侵攻する」と思っている。

 2025年12月11日、NATOのトップであるマルク・ルッテ事務総長はドイツで演説し、「ロシアが今後5年以内に欧州のNATO加盟国を攻撃する可能性が高い」と警告した。

 サイバー攻撃や偽情報の拡散、NATO加盟国の空港や軍事基地付近でのドローン疑惑など、「ハイブリッド戦」や「グレーゾーン戦」と呼ばれる攻撃は、2025年に入ってから急増している。

 ルッテNATO事務総長は演説で、「プーチンの思い通りになった場合を想像してほしい。ウクライナがロシアの占領下に置かれ、ロシア軍はNATOとの境界のさらに長い部分で圧力をかけてくる。その結果、我々に対する武力攻撃のリスクが大幅に高まる」と述べた。

 さらにルッテNATO事務総長は、「戦争はヨーロッパのすぐ隣にあり、あまりにも多くの人々が静かに油断しており、あまりにも多くの人々が緊急性を感じていない」と懸念を示し、「ロシアはすでに我々の社会に対する秘密工作を激化させている」「我々は、祖父母や曾祖父母が耐えた規模の戦争に備えなければならない」と述べた。

「祖父母や曾祖父母が耐えた規模の戦争」とは、第2次世界大戦を意味している。

 ルッテNATO事務総長は、第2次世界大戦のようなヨーロッパ全土における全面戦争が間もなく起こる事を予測し、それに備えるよう呼び掛けているのである。

 因みにルッテNATO事務総長の発言は、NATOの情報機関がロシアについて調査した内容を根拠としている為、精度は極めて高いと見てよい。

 かつて2022年の初頭にロシアのプーチン大統領は「自分達から他国に攻撃を仕掛ける事は無い」と発言していたにも関わらず、その直後に20万人のロシア軍が国境を越えてウクライナに侵攻した。

 そして現在ロシアは、西欧諸国に攻め込む意思など無いように見せかけながら、虎視眈々と西欧諸国への武力攻撃を画策しているのである。

 常識的には、ウクライナ戦争で泥沼状態に陥っているロシアに、欧州に侵攻する余力など無いだろうと思われがちである。

 しかしながら、ウクライナ戦争の長期化と泥沼化をもたらしている最大の原因が、西欧諸国からウクライナへの軍事支援であるとロシアが判断した場合、武力攻撃の矛先が西欧諸国へと直接向けられる事は必然なのである。

 この事は、かつて我が国が支那事変において長期戦に陥った際に、戦局の泥沼化の原因が米英による対中支援であると判断した結果、米英を相手に戦争を始めるようになった経緯と全く同じである。

 周囲からは無謀極まりない作戦に思えても、戦争当事者にとっては、それが最も合理的な現状打開策なのである。

 今やロシアは、本格的に西欧諸国に対する戦争準備に入っている。

 ロシア経済は、対ウクライナ開戦以来、3年以上にわたって総力戦体制下にあり、戦車、ミサイル、砲弾、ドローン等を増産し続けている。

 ドイツのキール世界経済研究所の報告によると、ロシアは毎月、戦車約150両、歩兵戦闘車約550両、攻撃型ドローン120機、火砲50門以上を生産しているという。

 一方、欧州のNATO加盟国は、この生産水準には到底及ばない。

 西欧諸国の製造業がロシアの兵器生産水準に追い付くには、5年以上を要すると軍事専門家は指摘している。

 さらにルッテNATO事務総長は12月11日の演説で、「我々は防衛費と生産力を急速に増加しなければならない。我々の軍隊は、安全を守るために必要なものを備えなければならない」と強く訴えた。

 NATOのトップがこれほど切羽詰まった演説をした事はこれまでに無く、西欧諸国とロシアとの戦争が近い事は間違いないようである。



徴兵制復活と兵力増強に尽力する欧州諸国



 過去80年間にわたり西側陣営の盟主であった米国は、トランプ大統領の登場によって「脱欧・親露」政策へと大転換した。

 今や米国は欧州防衛に対する関心も低く、NATOからの脱退をも検討している。

 その一方で、米国はウクライナ戦争の停戦交渉においては、ロシア側に有利になるように誘導している。

 すでに米国は「西側陣営の盟主」ではない。この事だけは明らかである。

 かくして盟主不在となった西側陣営の国々は、安全保障上の巨大なリスクを抱えることになった。

「もはや米国に頼る事は出来ず、欧州は欧州自身で守るべきだ」との認識が、今や欧州内部で共有されつつある。

 そうした矢先の12月4日、米国政府から「国家安全保障戦略」が発表された。

 米国は安全保障の重点を南北アメリカ大陸(=西半球)に置き、その代わりに欧州など他の地域への関与はしないという内容である。

 これまでにもトランプ大統領は、事あるごとに「欧州離れ」を口頭で示唆してきたのであったが、今回、その事を正式に明文化した意味は大きい。

 今回は、トランプの気まぐれによる脅しや牽制などではなく、アメリカ合衆国の正式な国家戦略として、「欧州離れ」を明確に宣言したのである。

 こうした時代潮流に対応して、今や欧州のNATO加盟諸国は、ロシアによる侵攻に備えて「徴兵制復活」へと舵を切っている。

 2025年11月時点において、NATO加盟国の中で、「何らかの形で召集・登録義務・検査義務を伴う兵役制度」が存在する国は、デンマーク、ギリシャ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、トルコ、エストニア、ラトビア、リトアニアであった。

 だが現在では、NATOの欧州加盟国の主要な国々は皆、急速な「徴兵復活」の動きを見せている。

 2025年12月5日、ドイツ連邦議会は「新兵役法案」を賛成多数で可決し、2026年1月から施行されることになった。

 ドイツの「新兵役法案」では、まず本格的な徴兵制に移行するまでの期間として、満18歳の男子国民全員に徴兵検査を義務付ける。その一方で志願兵獲得の効果も期待しており、自ら志願した者には、月額2600ユーロ(約47万円)の報酬が保証される。

 2024年のドイツの総兵力は約18万人、予備役約3万4千人であったが、ドイツは2035年までに正規軍26万人、予備役20万人の国防体制を目指しているという。

 またフランスも2001年に停止した徴兵制を段階的に復活させようと検討している。

 2025年11月28日、マクロン仏大統領は「国家奉仕制度(SNU)」の拡充を基盤に兵役的要素の段階導入を提案し、「我々は動員しなくてはならない」と国民への理解を訴えた。

 フランスは、2026年夏から18~19歳の国民男子に対して段階的に徴兵制の導入を開始し、2035年には5万人の新兵を徴兵によって確保する事を目指している。

 さらにデンマークは、冷戦後も徴兵制を維持してきたが、2023年に議会が「兵役強化法」を可決し、2025年7月から男女同一制度へと移行した。「ジェンダー先進国」として、女性にも徴兵検査や召集が適用されることになる。

 またオランダは、1997年に徴兵制を停止したが、2014年のロシアによるウクライナ領クリミア侵攻を契機に、2018年に男女問わず満17歳の国民に対し、徴兵リストへの登録通知の送付を開始した。これは予備役登録の一環で、今後正式に徴兵制復活となる可能性が高い。

 その隣のベルギーは、1994年に徴兵制を廃止したが、現在、徴兵制復活を検討している。その前段階として、満17歳の男女全員に任意志願を促す募集書簡を送付し、年間7千人の新兵確保を目標としている。

 NATO諸国の中でも特に強い危機感を抱くポーランドでは、2025年3月にトゥスク首相が「全成人男性への軍事訓練の義務化を立案中」と発表し、若者から高齢者まで国民約40万人を動員した同国史上最大規模の軍事訓練の実施を宣言し、同時に現行の22万人の総兵力を50万人にまで拡大する構想も打ち出している。



歩兵重視の軍事思想への回帰現象



 欧州各国が、ここに来て「徴兵制」を慌てて復活させたり、兵員の頭数の大量確保に総力を挙げている事情の背景には、明確な理由がある。

 2022年に始まったウクライナ戦争によって、「戦闘の勝敗は最終的に兵員の頭数で決まる」という、古典的な軍事思想の正しさが再び証明された為である。

 ベトナム戦争が終結した1975年以降、ウクライナ戦争勃発までの約半世紀の間、世界の軍事思想は「兵器の高度技術化」と「少数精鋭化」が主流となっていた。

 とりわけ1991年の湾岸戦争においては、コンピューターや通信技術の発達によって圧倒的な技術工学を駆使した米軍が、僅か2カ月足らずでイラクを降伏させた。

 兵器は年々、技術の高度化と自動化を発展させ、戦車、戦闘機、大砲、小銃に至るまで、指令部を中心としたネットワークの端末やセンサーとして機能するようになった。

 そうした高度技術の兵器を使いこなせる兵士像としては、IT技術に秀でた専門職的な能力が求められる為、必然的結果として、軍隊は少数精鋭主義となる。

 2003年のイラク戦争においても、「兵器の高度技術化」と「少数精鋭化」といった軍事思想で十分通用していた。

 その結果、湾岸戦争のケースと同様、圧倒的な兵器技術の差により、短期間でイラク戦争は終結した。

 一方、国民全員を巻き込んだ長期戦を前提とする「総力戦思想」は、完全に過去の遺物になったかのように思われた。

 しかしながら2022年から始まったウクライナ戦争では、世界中の軍事専門家の予測が完全に裏切られた。

 ウクライナ戦争は、湾岸戦争やイラク戦争で見られたような短期戦を前提とした高度技術による一方的な戦争とは程遠い様相を呈した。

 今やウクライナ戦争は、「兵力と物資の大量動員」という第1次世界大戦以来の「総力戦思想」が最も必要とされる戦争へと変貌を遂げている。

 従来、「陣地制圧」の為の第1段階は、爆撃機や戦闘機による制空権の確保であり、それに続く第2段階は、戦車や装甲車部隊を主力とする地上制圧が基本であった。

 だが、誘導型の高性能ミサイルやドローン兵器等の急速な進化により、かつて戦場制圧の主体であった航空機や戦車や装甲車などは、敵側から格好の餌食となって全て破壊されるようになった。

 その結果、現在では戦場を実質的に制圧する主体は「歩兵」となり、勝敗は「歩兵の頭数」で決する展開になっている。

「歩兵」が主体の戦闘とは、具体的には、塹壕戦や白兵戦や人海戦術である。

 そのような戦闘における勝敗は「歩兵の頭数」で決まる為、軍としては、他の何よりも兵員数を必要としているのである。

 ウクライナ戦争が長期化し、泥沼の膠着状態に陥っている最大の原因は、「歩兵戦」が主軸の戦争になった為である。

 即ち、現在ウクライナ戦争において戦われている戦闘の実態は、第1次世界大戦の西部戦線におけるソンムやヴェルダンの戦いのような歩兵主体の戦闘である。

 日本人にとって分かり易い例を挙げるなら、日露戦争における旅順攻略戦のような白兵戦や人海戦術が中心の戦闘である。

 そのような歩兵戦が、ウクライナとロシアの国境付近において、際限なく繰り広げられているのである。

 このように、今や軍事思想は100年以上も昔に逆戻りする展開になったのである。

 英国防省の推計では、ウクライナ戦争でのロシア軍の累計死傷者は100万人規模に達したとされる。毎日のように、数千人単位の死傷者を出していることになる。

 それでもロシアは、依然としてウクライナ方面に投入する兵力を大量に保有しており、準軍隊および予備役も含めた総兵力は300万人を超えると見られる。その上、北朝鮮からも「外人部隊」として「歩兵」が供給され続けている。

 すでに100万人規模の死傷者を出しながらも、なおマンパワーを保持し続けるのが、ロシアの伝統的な戦い方である。

 第2次世界大戦における独ソ戦では、スターリンは2千万人もの自国民の生命を犠牲にした末に、勝利を獲得した。

 スターリンのような「祖国の英雄」を目指しているプーチンにとっては、100万人程度の犠牲者など、物の数ではないのであろう。

 因みにロシアのショイグ国防相は、「ロシア軍の動員可能人数は2500万人」と称している。

 ロシアは、まだまだ戦争を止める気は無い。

 また現在のロシアが決して停戦交渉に応じない理由は、すでにロシアが西欧諸国に対する戦争準備を同時に進めている為である。

 兵力消耗戦をも厭わないロシアを相手に、西欧諸国が対峙する為には、最低でも同等の規模の動員兵力が必要不可欠である。

 NATO加盟の32カ国から米国、カナダ、トルコを除くNATOの欧州加盟国29カ国の現有兵力は約202万人、予備役が約108万人、総兵力で310万人である。

 人数だけ見れば、一応西欧諸国は、ロシア軍と拮抗するレベルにあると言える。

 しかしながら、もし本当にロシアに「2500万人」の兵力動員が可能であれば、西欧諸国はひとたまりも無いであろう。

 スターリン崇拝者のプーチンとしては、冷戦時代にソ連の衛星国であったポーランドやルーマニア、チェコスロバキア、ハンガリー、ドイツ東部などの旧共産圏の領域を、再びロシアの勢力下に置きたいと考えているはずである。

 少なくとも旧ソ連領であったバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアについては、再びロシアに併合しなければならないとプーチンは考えているであろう。

 ロシアは、ウクライナの次は、間違いなくバルト三国に侵攻する。

 このように、ロシアが対欧州戦争に積極的になったり、NATOの欧州加盟国が「徴兵令」を続々と復活させるようになったそもそもの原因は、米国の国家戦略の大転換によって始まった事である。

 今後、米国が他国の為に軍事力で戦う事はあり得ない。

 米国が欧州から手を引いた結果、現在、欧州諸国は動員兵力の増強に全力を挙げている。

 一方、東アジアにおいては、日本や韓国や台湾は、これからは米国抜きで、中国、ロシア、北朝鮮と対峙しなければならない状態に置かれている。

 韓国や台湾は、約80年近くにわたって「戦時下」である為、ずっと徴兵制を続けているが、日本は徴兵制を廃止してからすでに80年が経っている。

 しかしながら今後、日本においても「徴兵制復活」の議論が出てくる事は避けられないであろう。

 すでに私達は、「米国のいない世界」に生きているのである。



日本は「親欧・脱米」を国家戦略の原則に



 今回トランプ政権が発出した「国家安全保障戦略」は、「西半球」を米国の勢力圏と定め、南北アメリカ大陸における米国支配を確立し、外部からの干渉を許さない「トランプ版モンロー主義」を宣言した。

 そして「西半球でいかなる反対勢力が優勢になることも許さない」として、「グローバルな軍事的プレゼンスを西半球における緊急的脅威に対処すべく再調整」すると宣言した。

 この「再調整」とは、当面は欧州や中東に駐留している米軍の撤退を意味しているが、いずれは在日米軍をはじめ全ての米軍がアジアからも撤退する事を示唆している。

 米国からの日本や韓国への対GDP比5%の防衛費増額要求は、こうした文脈で受け止めなければならない。

「今後、アジアにおける紛争は、アジアの当事国同士で解決してくれ」という事であって、米国は直接関与しないという意味である。

 こうした米国の本音は、前回紹介した「対日超党派報告書」に如実に表現されている。

 これは非常に重要な文書である為、再度掲載する。

「対日超党派報告書」は、下記のような内容である。

1.東シナ海、日本海近辺には、未開発の石油・天然ガスが眠っており、その総量は世界最大の産油国サウジアラビアを凌駕する分量である。米国は何としてもその東シナ海のエネルギー資源を入手しなければならない。

2.そのチャンスは、台湾と中国が軍事衝突を起こした時である。当初、米軍は台湾側に立ち、中国と戦闘を開始する。また日米安保条約に基づき、日本の自衛隊もその戦闘に参加させる。中国軍は、米日軍の補給基地である在日米軍基地や自衛隊基地を「本土攻撃」するであろう。本土を攻撃された日本人は逆上し、本格的な日中戦争が開始される。

3.米軍は戦争が進行するに従い、徐々に戦争から手を引き、日本の自衛隊と中国軍との戦争が中心となるように誘導する。

4.日中戦争が激化したところで米国が和平交渉に介入し、東シナ海、日本海でのPKO(平和維持活動)を米軍が中心となって行う。

5.東シナ海と日本海での軍事的・政治的主導権を米国が入手する事で、この地域での資源開発に圧倒的に米国エネルギー産業が開発の優位権を入手する事が出来る。

6.この戦略の前提として、日本の自衛隊が自由に海外で「軍事活動」が出来るような状況を形成しておく事が必要である。


 因みにこの「対日超党派報告書」の内容を見れば、中国にとって最も有利になる形になっている事が分かる。

 かりに中国が台湾に武力侵攻しても、米国が事実上の「不介入」であれば、中国が懸念する「米中全面戦争」は回避できる為、中国が台湾侵攻を躊躇する必要は無くなるのである。

 しかも中国軍が台湾を実効支配してしまえば、米国が調停に入った場合でも、台湾が中国の領土として正式に編入される事は確実である。

 この「対日超党派報告書」は、2008年に米上下両院の議員200名によって作成されたものであり、まとめ役のジョセフ・ナイ教授は、米国政府の国家戦略に最も多大な影響力を持つ歴代大統領のブレーンであった人物である。

 なお当時は、中国政府から派遣された多くのエージェント達によって、米ホワイトハウスの高官や米上下両院の議員達を相手に、大量の資金を提供するロビー活動が盛んに実行されていた時期であった。

 そうした結果として、米国の「対日超党派報告書」にも、中国共産党の意図が反映されている可能性は十分にある。

 2015年に安倍政権が国会で強引に成立させた「平和安全法制」は、この「対日超党派報告書」に基づくものであった。

 そして今回の「国家安全保障戦略」の内容もまた、この「対日超党派報告書」の文脈で理解しなければならない。

 新たな「国家安全保障戦略」では、「米国は第1列島線のいかなる場所においても侵略を阻止する軍事的能力を構築する」ことが必要であり、「同盟国が集団防衛のために立ち上がり、より多くの出費を負うと同時に、さらに重要なことはさらに多く『行動』すること」だとしている。

 つまり、日本がより多くの防衛費を負担し、より積極的な軍事行動をする事を求めているのである。

 ただし米国の真の意図は、日本を中国の軍事力の矢面に立たせて、徐々に米国が梯子を外す形でアジア地域から手を引くという戦略である。

 米国は、あくまで日本と中国とを直接戦争させる事が目的である為、日本に対しては米国が味方であると信じさせ、うまく日本をおだてて対中戦争に仕向けようとする。

 今回の「国家安全保障戦略」の中で明記されている通り、米国は南北アメリカ大陸にしか関心が無く、アジア地域における関心はあくまで「経済」だけであり、最終的には日本近海の石油や天然ガスだけが目当てなのである。

 従って台湾有事の際には、我が国は決して米国が仕掛ける罠に嵌らないように、前線からは距離を置き、「後方支援」と「専守防衛」のみに徹しなければならない。

 しかしながら、お調子者の高市首相が米国の口車に乗せられて、台湾防衛への本格介入に踏み切るならば、日中の全面戦争は避けられない事態になるだろう。

 すでに欧米のメディアでは、「高市発言」以降、「日本は第2のウクライナになる」「高市は第2のゼレンスキー」等々の論調が数多く出されるようになった。

 欧米メディアの方が、日本国内の大手メディアよりも、東アジア情勢を遥かに正確に分析しているようである。

 中国当局は、台湾武力侵攻の「許認可」を、米国からすでに与えられたものと解釈している。

 たとえ米国側にその気が無かったとしても、米国は今回の「国家安全保障戦略」を出した事で、中国に対し「台湾への武力侵攻を容認する」と誤解させるメッセージを送ってしまったのである。

 かつて1950年1月に、米国のアチソン国務長官が発表した「アチソン・ライン」が、北朝鮮の金日成に誤ったメッセージを与えてしまった結果、同年6月に北朝鮮軍が韓国に侵攻して朝鮮戦争が勃発した。

 それと同様に、今回米国政府が発表した「国家安全保障戦略」によって、中国による台湾侵攻が秒読み段階に入った事は間違いない。

 NATO事務総長は、5年以内にロシアが欧州に軍事侵攻する事を警告しているが、中国が台湾に軍事侵攻する時機は、もっと早まるであろう。

 そして台湾の次に中国が侵攻する先は「沖縄」である。

 今回の「国家安全保障戦略」は、米国のトランプ大統領が、中国の習近平やロシアのプーチンに対して、「周辺領土は勝手に奪って良い」との保障を与えたという意味で、歴史を変える画期的文書であると言える。

 しかしながら、法治主義と民主主義の原則に基づいて国民から選出されたはずの米国大統領が、法治主義と民主主義の原則を無視して、国際社会において「力の支配」を正当化する行為は、論理矛盾も甚だしい。

 一方、欧州諸国やカナダなどは、このようなトランプ政権の考え方に与せず、国際社会に「法の支配」と「国際協調主義」を取り戻そうと模索している。

 今後、我が国が進むべき道は、国際社会において「力の支配」ではなく「法の支配」を支持し、「自国第一主義」ではなく「国際協調主義」の立場から、欧州諸国やカナダ、オーストラリアなどと連携して、自由と民主主義の価値観を守り抜く事である。

 そして我が国は、「親欧・脱米」を国家戦略の原則とする必要がある。

 これは我が国にとっては、敗戦以来、80年ぶりの国家理念の大転換となる。

 すでに世界は、「米国のいない世界」を前提にしなければならないのである。

 いよいよ今年からは、政治家や官僚はもとより、国民全体に大きな意識改革が求められるであろう。















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